たま「東京フルーツ」

 「3たま」(3人体制になってからのたまを便宜上こう呼びます)を知らない人のための入門アルバム、とメンバーも言ってるという「東京フルーツ」。 
 例によって全曲の感想いきます!
(C)=知久さん、(I)=石川さん、(T)=滝本さん です。

1.(C)安心…… ♪ぼくの未来は火葬場の灰 大きな生ゴミ 海の漂流物 君の未来はおんなじさ 僕ら仲良く死んでくのさ♪ 歌いだしがこれである。実もふたもない。でもここまで言われるとなんだか、目の前の腹立つ人のことも「所詮こいつもそのうち火葬場の灰なんだから、怒ってもしょうがないよな」と思えないだろうか。どんなにあがいて頑張ったところで未来は火葬場の灰なんだったら、いっそ肩の力をもう少し抜くことができないだろうか。大切な人との喧嘩すらも、♪今日はけんかをしてしまった 楽しいけんかの思い出♪ と、かけがえのないものと思えるような気がする。抵抗を感じる人が大半だろうが、私にとっては必要な曲です。後奏のややしつこいハーモニカのリフレインはフィッシュマンズあたりを意識していたのだろうか?(なんでやねん)

2.(T)とかげ……たまといえば「さよなら人類」くらいしか知らない人100人にこの曲を聴かせて、「これ、たまでしょ?」と言う人は0人だと思う。それくらいたまからは到底イメージできない普通にかっこいいロックナンバーである。♪スピードに真夜中上げる 真夜中にスピード上げる♪ ♪すごい速さで頭の中がしゃべりはじめる♪ など、いつになくスピード感ある歌詞。Gさん(滝本さん)のヴォーカルがまたしびれる。今年の箱根駅伝でGさんの母校・駒澤大学が優勝したが、あの劇的な逆転シーンのBGMに使えるたまの曲といえばこの曲くらいしかないのではないか。駒澤大学陸上部の諸君はこの曲を「かっこいい」と思ってくれるだろうか。それとも ♪生き物は生きるのが大好きさ ほかにすることもないさ 目を覚ますか眠るだけ♪ という歌詞に脱力するだろうか。

3.(I)カボチャ……これまたたま流パンク? 1分46秒であっという間に終わる。

4.(C)夢の中の君……3たまになってからの知久さんはエレクトロサウンドに意欲を見せ始めていたようだ。この曲も、スペイシーなサウンドの「ゆめみているよ」もそうなのだが、知久さんの曲の世界と合っているような、いまいち合ってないような……? 

5.(C)学習……たまを聴いて涙が出ることって意外とないんだけれど、この曲は泣ける。 ♪今になってあの時のあの人の気持ちが分かるから あとになって今の君の気持ちを分かることにするよ 君を許してあげるよ ぼくのために♪ である。かつて自分を裏切った、その時は憎くて仕方なかった相手の気持ちや事情も今になればわかる気がするから、今は自分を裏切った君の気持ちがわからないけれど、とりあえず今は許すことにする、そうしないと自分が苦しくて辛くてたまらないから――。こんな、大人になれば何度かは訪れる重い心情を、明るいレゲエ調でからりと歌う。「いなくていい人」収録の名曲「南風」もそうだったが、きつい状況を暗く歌うのではなく、あっけらかんと歌うからこそ哀しみがよけいに伝わってくる。このあたりは知久さんの真骨頂である。

6.(T)ハダシの足音……たたみかけるように名曲が続く。本当にこのアルバムは濃い。たまにおけるGさんの集大成との呼び声も高い3拍子のポップな曲。ある意味「たま印」の安心して聴けるサウンド。しかし歌詞は……。眠ってる君のハダシの足音があてもなくさまよっている状況とはすなわち……? ライブ動画をyoutubeで見たことがあるが、4たま(柳原さん在籍時)しか見たことがなかった私にはピアノを弾き語るGさんの姿が衝撃的だった。か、か、かっこいい……‼ 3たまになってからのGさんは鍵盤楽器に強く意欲を持ちはじめたようだ。現在もソロライブでギターやピアノを弾き語っておられるが、特にピアノはめちゃくちゃ素敵です 

7.(I)小象の・・・……インディーズレーベルからでないと出せないだろうなというフレーズが一箇所。女子は歌えません。そこさえクリアすればどんどん面白く展開していく曲。

8.(C)いわしのこもりうた……こういうかわいらしくて切ないバラードが知久さんファンの心をつかんで離さないのだろう。歌詞はちょっと残酷だが(いわしをさばきながら聴くのにピッタリ?)。石川さんと知久さんのデュエット部分はお父さんと小さな男の子みたいだ、昔から。

9.(T)さよならおひさま……「たま さよなら」と打ち込むと、どのPCでも絶対「人類」と予測が出てくるんだろうけれど、私はぜひ、自分のPCに「おひさま」と覚えさせたい。それくらい個人的に一推しの曲である。栗コーダーカルテットの栗原氏のリコーダーが切ない、そして歌詞がもう……。 ♪さよならおひさま ぼくはもういいや これでおわりにする♪ とは。余命短い主人公がサナトリウムで自分の運命を受け入れることにしたのか、いやそれとも自らの命を絶とうとしている人……? 今のご時世、こういう事態は誰の身にも起こりうると考えると…… 美しすぎるメロディーとシンプルなサウンドに乗せて訥々と歌うGさんのヴォーカルがまた涙を誘う。

10.(I)ラッタッタ……前の曲で眉間にしわが寄りまくった人も、この曲で再び元気にラッタッタ たまにおける石川さん曲の中でも5本の指に入るであろう好きな曲。キャッチーなサビ、お祭りのようなジャンガジャンガした音、問答無用で楽しめる一曲。

11.(T)「夏です」と1回言った……スローに歌いだし、ざくざくしたフォークロック調に変化したかと思うと、サビでは勢いつけてぐんぐん真夏の空に昇っていくような高揚感が。たちこめる空気がG線上のアリアで「夏です」と一回言ったとか、小さなひまわりたちがカノンで「夏休みですから」と一回ずつ言ったとかシュールすぎる歌詞の世界。いったいどうすればこんな歌詞が作れるのか。ともあれ、超名曲「サーカスの日」に迫るこれまた手を止めて聴き入ってしまう名曲。

12.(C)ゆめみているよ……「たま ゆめみているよ」という字面だけだとメルヘンチックな印象だが、歌詞は残酷なまでに現実的。愛し合う(おそらく)二人が並んで寝ているのに、見ている夢はまったく別の夢という……。まあ当たり前のことなのかもだけど、何か不穏なものを感じさせる。

 冒頭で「3たま」を知らない人のための入門アルバム、とメンバーも言ってる、と書いたが、入門編というよりは、やはり3たまの集大成と言った方がいいかもしれない。
 いや、誤解を恐れずに書くと、「3たま」を知らない人がこれを入門編とか集大成と思って聴くとちょっとショックなのではと思う。
 もともと優れたシンガーソングライター3名(ないし4名)の集合体であるたま、方向性はバラバラで当然なのだが、そのバラバラ感が最も顕著に表れてしまったアルバムという気がするのだ。
 バラバラな方向性が奇跡的に一つにまとまっていたたまが、ここにきてまとまり切れなくなり、3名がそれぞれの方向を向いてしまっている。そんな印象を受ける作品群なのだ。
 メンバー全員が40代になり、少しずつ妥協が出来なくなっていった、意見が合わなくなっていった、という状況を石川さんが著書で少しだけ書いていたが、このアルバムを聴くとさもありなんと納得できる。

 歌詞カードで音楽ライターの方が書いている解説に「たまという言葉に何かを感じる人の心には『たまのたね』がきっとある。そのたねがあれば、どれだけブランクがあってもたまに戻って来れる」という主旨の文があって、戻ってきた人間である私としては救われた思いがした。もう二度と、「たまのたね」を封印したりしない。いつまでも「たまのたね」を心に持ち続けている人でありたい。 

 Amazonのリンクを張っといて何なんですが、たまは「地球レコード(http://www.officek.jp/chikyu)」という自主レーベルを持っていて、たま解散後はGさんが運営されています。
「地球レコード」で買えるアイテム(このアルバムも)はそちらで買う方が、何かイイことあるかもしれませんよん(特にGさんファンの方は絶対そちらで!!)。
 とりあえずそのイイことを体験した私はその場で気絶しました……。

東京フルーツ - たま
東京フルーツ - たま

たま「いなくていい人」

 というわけで、実に28年ぶりに買ったたまのアルバムなのである。
 「いなくていい人」。
 以下、(C)知久さん、(I)石川さん、(T)滝本さん の曲です。
 (たまをよく知らない方に説明すると、たまは曲の作者がヴォーカルも取るというスタイルのバンドなので、どの曲を誰が作ったかというのはすごく重要な情報なのです)

1.(C)いなくていいひと……同じメロディーを何度も繰り返すだけの曲なのだが、なのにすごくお腹いっぱいな気分になる不思議な一曲。爆音のエレキギターにも驚く。
「ねえ誰かぼくの嘘をまじめに聞いてくれないか ぼくのおしごとはいなくていいひと」これは逆に、自分はこの組織に絶対必要な人材なんだ、自分がいなくなったらこの組織は回らないんだと思い込みたい人種に対する皮肉なのかな(「嘘」って言ってるからね)と思った。

2.(I)へっぽこぴー……このタイトルとは裏腹に、リズムといい演奏といい石川さんの絶妙なヴォーカルといい(歌ってるというより演じている)、めちゃめちゃかっこいい一曲。歌詞カードの「一部聞き取り辛い箇所がありますが、本人はこう歌っているつもりです」というコメントが笑える。

3.(C)ぎが……「クリスマスの夜 くるしまず眠る」という歌いだしがインパクト大の、クリスマスにぴったりな(?)小曲。「ぎが」というのは死んでしまった飼い犬らしいのだが、「お金払って買ったぎが」「10回払いで買ったぎが」とやたらお金のことが出てくるので(笑)、犬じゃなくてロボットか何かなのかなあとも想像。それはともかく美しい3拍子のバラード。

4.(T)青空……この歌に出会ってから、「今は『青空』にふさわしい空かな?」と空を見上げることが増えた。たま史上1,2を争う爽やかな曲、だけどそこはGさん(滝本さん)、爽やかなだけでは終わらない、何かしらわずかに不穏な問いかけを残して終わる曲。

5.(T)箱の中の人……先ほど爽やかな「青空」を歌った人と同一人物とは思えないほど混沌とした曲。箱の中の人の幻覚なのだろうか、いろんな色のパラソルが散る(名曲「夏の前日」ではいろんな色のパラソルが回ってたが)。

6.(C)326……たまとしては珍しく、メンバー以外の作曲による曲。サウンドも従来のたまから遠く離れているようで、それでも知久さんが歌えばやはりたまの唄になるのがさすが知久さんである。

7.(I)健さん……とび職のおっさん・健さんがなぜか妊娠してしまうというシュールな歌だが、そこは石川さんの個性のおかげで、キュートなテクノポップ(?)に仕上がっている。石川さんってきわどい歌やナンセンスな歌も多いが、どんな歌を歌ってもどこか可愛くて品がある。ちなみにうちの息子(小学6年)はなぜか「べらんめえ」のところで爆笑する(笑うとこじゃないと思うんだが)。

8.(I)ハッピーマン……たま流パンク? ライブではジャンプするお客さんもいたのではないだろうか(いるか?)。ちなみに私は掃除する時、この歌の替え歌を勝手に作って  ♪マイクロファイバー(ファイバー!) みんなキュッキュッ ピカピカだ 幸せだ♪ とか歌いながら掃除してます。

9.(C)南風……2曲にわたって石川さんに好き勝手されて、これどう収拾つけるのかなあと心配してたら、見事にこの曲がまとめてくれましたって感じの名曲。大切な人が死んでしまっても、残されたぼくたちはその人の分まで生きたいだけ生きて、遊びまくってあげく死んじゃうぞぉ(死んじゃうところまで歌うのが知久さんらしい)という、やややけっぱちとも取れるが逆に優しさや強さも感じる追悼ソング。あっけらかんとした明るいレゲエ調のリズムが沈んだ気持ちを救ってくれる。

10.(T)サーカスの日……「南風」という素晴らしい曲で大団円、あーよかった!となるはずもないのがたまである。最後の最後に控えているのがこの大名曲にしてある意味問題曲。前の記事でも書いたが、何か別の作業をしていてもはたと手を止めて聴き入ってしまう、そして遠い目になってとりとめもなく考えをめぐらしてしまう。「ぼくらは何をしてどこへ消えていくんだろう」という人間にとって永遠のテーマを、目の前いっぱいに広がる星たちに問いかけるという詞の世界、流れるようなメロディーを訥々と切なく歌うGさん、宙を舞うようなアコーディオン、もうなんて言っていいのか……。前の記事にリンクを張ってるのでぜひ聴いてみてほしい。

43分という短い収録時間なので、あっという間に終わり、また繰り返したくなる。
4たま(柳原さん在籍時のたまを便宜上こう呼ぶ)のアルバムしか聞いたことがない状態で初めて聴く3たまのアルバムは、さびしいとか物足りないとかいうことがまったくなく、確かにエレキギターやテクノっぽい打ち込み、管楽器などが盛り込まれているが違和感も不思議と感じることなく、「こういう感じなんだ。これもあり。これも気持ちいい!」と思えたのが自分でもうれしかった。
4たまのイノセンスは薄まったが、外部ミュージシャンの力を借りて少し大人になった(って言い方も変だが)たまもやっぱりいい。4たまは至高、3たまは最高。

すっかり3たまに魅了された私は、他のアルバムも入手できるだけ入手しよう!と決意を新たにし、youtubeでたまを流しつつ、ネットで他の作品を物色する日々となったのである。つづく🎧

いなくていい人 - たま
いなくていい人 - たま