中山可穂「銀橋」

 中山可穂さんの「男役」「娘役」に次ぐ、宝塚シリーズ第3弾が出ていたことを知り、さっそく読みました。

 人気男役・レオンこと花瀬レオと、ナッツこと永遠ひかるの間の学年に当たる、実力派男役・ジェリコこと鷹城あきらが今回の主人公。

 いぶし銀の輝きを放ち続ける超実力派専科の男役・アモーレこと愛河凛(そういえば大河凛って男役さんがいたな)に憧れ続け、恵まれたルックスと実力にもかかわらずスター路線に乗ることをかたくなに拒み、新人公演でもアモーレさんの役をゲットし、別格男役として宙組で不動の地位を築いていたジェリコ。

 ある日、音楽学校時代から親しくしている上級生・レオンが、花組から宙組に異動してきてトップになる。
 ジェリコにとっては願ってもないことである。
 しかもそのお披露目公演は、アモーレさんの退団公演ともなってしまい、ジェリコは気合を入れて稽古に臨むが、千秋楽を前にまさかの事態が起こる。アモーレさんが公演中に姿を消したのである――。

 「男役」からの通しキャラであるレオンと、下級生のナッツの禁断の(?)関係性がその後どうなったのか、ナッツの憧れの人であるパッパさんこと如月すみれの謎、などなど、通して読んできた読者には興味をそそられる内容であり、ジェリコとアモーレさんの師弟関係にも涙が。
 実際の専科さんってどうなんだろう。すみれコードぶっちぎりで言えば、下手したら還暦前後のお姉さま方である。アモーレさんのように舞台でのケガがもとで視力が極端に落ちてしまっている人、持病を抱えている人もいるかもしれない。
 もっとも、アモーレさんのように自らの退団公演の途中に劇場を出ていき、武庫川の河原で心臓発作を起こして倒れるなんてことが現実に起こったら大変だが、タカラジェンヌとして年齢を重ねていく過程には、人には言えないしんどい状況も往々にしてあるのかもしれない。
 タカラジェンヌは全員が未婚の女性だが、若い時期は誰にとっても永遠ではない。退団したら一人の女性としてどう生きるのか、残るなら残るでどう、タカラジェンヌとして生きていくのか、そんな姿を、パッパさんとアモーレさんは読者に示してくれているのかもしれない。
 
 個人的には、ジェリコのお父さんのキャラがなんとも言えず味があると思った。
 堅物な、誰も笑顔を見たことのないほどの大学教授が、まさかの一人娘のタカラヅカ志望という事態に大いにうろたえ、とことんタカラヅカについて調べつくし、ジェリコの入団後はすべての公演に足を運び、DVDもすべて買うのである。
 親子なのに敬語で話す父が、タカラヅカという共通項でなんとか娘との距離を縮めようとする、そんな不器用な、ぎこちない親子愛がなんだかしみるんだな。
 リアルジェンヌさんのお父さんにも、そういう人が結構いるのかも……?


銀橋
KADOKAWA
2018-09-21
中山 可穂

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中山可穂「娘役」

 中山可穂さんの「男役」に次ぐ、宝塚シリーズ(?)第2弾は、タカラヅカの娘役と、彼女に純粋な愛をささげるヤクザの組長という、ありえないようであるかもしれないファンタジーである。 

 大鰐組組長・ムッシュこと大鰐健太郎を殺るべく、尾行を続けてきた他組の若衆・片桐蛍一。
 ある日、ムッシュが入っていった先、それはなんと宝塚大劇場……。
 大いに戸惑いながらも当日券をゲットし、背後からムッシュの首に手をかけたその瞬間、舞台上でラインダンスを踊っていた初舞台生・のび太こと野火ほたるが勢いよく飛ばしたハイヒールが片桐の目の前に飛んできたのだ。
 なぜか片桐はそのハイヒールを持ち帰り、夜の大阪の街をシューズリペアキットを探して奔走し、一晩かけて修理し、宝塚歌劇団雪組に送り返す。
 ほたるが飛ばしたハイヒールは、天からの啓示だったのか。片桐は組を移籍し、大鰐組預かりになる。ムッシュの話し相手となった片桐に、もう自分は長くないと悟っていたムッシュは、自分が知る限りの宝塚歌劇の知識を教えるのだった。

 チンピラ上がりから組内二番手、そして組長へと、組内でめきめき地位を上げる日々の中で、片桐はほたるに思いを寄せ続け、ほたる会に入り、花代をたっぷり弾み、しかしお茶会には決して顔を出さず、あくまでヤクザとしての分をわきまえてひそかにほたるを応援するのだった。 
一方のほたるは、子役専科と揶揄されるほど子役が続き、初めての新人公演ヒロインで主演の薔薇木涼とのデュエットダンスで尻もちをついてしまうという大失態を犯し、初めてのバウホールヒロインで練習しすぎて疲労骨折してしまうなど、苦難の娘役生活を送っていた。

 そんなある日、雪組行きつけの寿司店で、片桐とほたるは生涯にたった一度、言葉を交わすこととなる――。

 クールで熱い、クレバーにして大胆な片桐がとにかくかっこいい(その苦み走ったいい男ぶりから、雪組の組子たちからは「健さん」と呼ばれる)。現実にこんなヤクザさんいるんかしら、というくらい。 そんな片桐が、ほたるのこととなれば途端に純情になるのがまたかわいい。
 片桐が拾われる「大鰐組」の描写がまたヅカファンには受ける。なにしろ組長以下組員全員に愛称がつけられ(ちなみに片桐は「ギリ」)、若頭は「二番手」と呼ばれ、組のモットーは「品格・行儀・謙虚」(これ、実在したタカラヅカの大御所・春日野八千代御大が、タカラジェンヌの心得として口を酸っぱくして言っていた言葉)。 組長がヅカファンだからってこんなに徹底するとは、と、笑いながらも、こんな組があったらいいなあとも思う。
 一方で、チャンスを次々にふいにしながらも別格娘役として活躍していたほたるが、なんと研10(入団10年目という意味です)でまさかのトップ就任(これは娘役としてはかなり遅い部類)! 片桐にとってはずっと願い続けていたこと、だったのだが……。
 
 ハードボイルドで哀しい、清く正しく美しくはかない10年愛の物語を、ぜひ読んでみて下さい📖


娘役
KADOKAWA/角川書店
2016-04-27
中山 可穂

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私と音楽―CDウォークマン編―

大学は外国語大学だったので、必然的に「洋楽が好きで英語が好きになった」「洋画が好きで英語が好きになった」というような学生が周りにいっぱいいて、私も洋画をいろいろ見てみたり、友人が貸してくれたクイーンのアルバムを聴いてみたりしたけれど………
 ごめんなさい。
 今の今に至るまで、なぜか洋楽が好きになれないのである。

 原因を自分なりにいろいろ考えてみたりもした。
 「歌が上手すぎて隙がないから」「演奏が上手すぎて隙がないから」「本当は英語より国語の方が好きだから」「ぶっちゃけ何を言ってるかわからないから」「訳詞が気取っていて好きになれないから」etcetc………
 今でもはっきりした理由は分からない。
 高校時代の私を知ってる人は「え? つむさんってビートルズのファンじゃなかったっけ?」と言うかもしれないが、あれは世を忍ぶ仮の姿。
 確かにビートルズのアルバムはよく聴いていたが、そこから発展して洋楽をより幅広く聴くという展開にはならなかった。もっと洋楽をよく聴いていれば、英語の成績ももっと上がっていたかもしれないが……。

 まあそれはさておき、キャンパスに洋楽が溢れる中、私は当時流行っていた渋谷系を中心に相変わらず日本のロックを聴いていた。
 高校時代から好きだった「詩人の血」、レピッシュ、コーネリアス、小沢健二、サニーデイサービス、スピッツ、カーネーション……。
 中でも大学時代最大のトピックといえば、現在に至るまで愛し続けているバンド、カーネーションに出会ったことであろう。
 「カーネーションっていうバンドが好きで」と言うと、よく「ああ、スウェーデンの」とよく返されたものだ(それはカーディガンズや!)。
 カーネーションがどんなバンドなのかは、ブログにも散々書いているので参照していただくとして、生まれて初めて自分のお金で、自分でチケットを買って行ったライブが、カーネーションの心斎橋クラブクアトロ(1996年10月)だったのである。
 就職活動へはウォークマンでカーネーションを聴きながら出かけた。
 就職して大阪で一人暮らしを始めてすぐ、ファンクラブに入会した。
 絶望と失意にまみれて故郷に帰ってきた時も、地元で細々と働き始めた時も、結婚して再び実家を離れてからも、母親になってからも、再就職した現在も、常にカーネーションの骨太で滋養あふれるバンドサウンドが手元にあった。
 そこからいわゆるメトロトロン人脈を聴くようになり、だいたい現在の私を形づくる音楽が出そろったわけである。

 リモコン無しのウォークマンは10年くらい使用した頃に突然うんともすんとも言わなくなり、リモコン付きウォークマンに買い替えた。  
 ちょうどその頃、兄からCDウォークマン(ソニーのディスクマン)を譲り受け、眠れない夜にボサノヴァを聴いたりした。
 結婚して夫が持ってきたミニコンポは、子どもが小さい頃は童謡のCDをかけるのに大活躍した。

 そして現在は、ビクターのALNEOという(今は無き)DAPに、PCから音楽を取り込んで聴くという状態になっている。
 このALNEOという機種、音は素晴らしく良いしFMラジオも聴けるし、とにかく最高のDAPだと当時は思っていたけれど、なぜか電源が勝手に切れてしまうなどのトラブルが多く、修理に出したりもした。
 それでも乾電池で聴けるという便利さは捨てがたく、乾電池のふたが壊れてしまった今も変わらず使い続けている。
 今ではスマートフォンで音楽を聴く人が圧倒的多数になり、DAPといえばiPodとウォークマンの2強に絞られてきてしまったが、ビクターさんにももう一度奮起してもらいたいものである。
 
 つらつらと思い返してみて、現在に比べて若い頃はなんと熱心に音楽を聴いていたことだろうと痛感する。
 今なんて、CDも一年に一枚買うか買わないか(毎年5万円分もCDを買っていた頃もあるというのに…)。
 好きなアーティストの新譜を買っても、聴かずに積読ならぬ積聴してることも増えた。
 DAPを聴いていても、他のことをぼんやり考えてしまい、純粋に音楽に集中する集中力が衰えてきた。
 配信もいまだに買ったことがないし、ウォークマンに入っている音楽をBluetoothでコンポに飛ばせるんですか、今って? なんかそのあたりも全然ついていけてない。
 あんなに音楽がすべてで、服もコスメも買わずにCDばっかり買っていた時期もあるのに、今は目先の現実的な事象にあたふたしているうちにばたばたと日々が、そして年月が過ぎて行ってしまっている。
 それが大人になるということなのか。

 時間が許せば、のんびりCDショップに出かけてみたいんだけど……。

 大学4年から就職にかけての私を支えてくれた超名盤。
 EDO RIVER(Deluxe Edition) - カーネーション
EDO RIVER(Deluxe Edition) - カーネーション

私と音楽―カセットウォークマン編―

父というのはかなり慎重な人で、家電を買うとなるとあらゆるメーカーのパンフレットを入手し、何度も店に足を運んで決めるタイプの人であった。 
 安かったからとか見た目がきれいだからというだけの理由でポンと買ってしまって後悔するというタイプの人ではない。 
 そんなわけで我が家にやってきた初めてのシステムコンポは、ONKYO Radianという機種のものであった。南野陽子がイメージキャラクターだったのだ、一応。
 これ、ものすごく音も良くて、機能も充実していて、家族みんなが飽きてしまってからも私だけはかなり長いこと愛用していた。
 さすがに30年近く経った今となっては、CDのOPENボタンを押しても開かなくなってしまったけれど…。

 高校1年の時、貯めたお年玉をはたいて、初めてのウォークマンを(もちろんカセットのですよ)購入した。
 ケチってリモコン付きのを買わなかったのでのちのちまで不便を感じることにはなるんだけれど、やはりどこでも好きな音楽を聴けるというのはうれしかった。
 大学に入り一人暮らしを始めた兄は、SANSUIだったかな、これまたちょいマニアックなメーカーのステレオを買っていたので、余ったDENONのCDデッキを私に譲ってくれた。
 そこにウォークマン用のSONYのちっちゃなスピーカーを買ってつなげ、勉強机にちょこんと置いた。 
 これで自分の部屋でもCDを聴けるようになったのだった。

 そうはいっても、母校であるO高校は相当キビシくて。
 宿題がごまんとあって、小テストも毎日のように。
 クラブ活動も熱心で、帰宅すればもうへとへと。
 音楽聴いてる暇なんてなかったはずなんだけれど、高校1年当時の私はかなり荒れていたので、宿題もそこそこにリビングのシステムコンポにかじりついて「たま」とかレピッシュとかのCDをカセットにダビングして聴いて、夜遅く就寝という毎日だったのだ。
 志望校に入学してはみたものの、成績は振るわず、入ったクラブにも居場所はない。
 クラスには友人が一人もできない。
 気持ちが不安定で、本当にいつグレてもおかしくない状態だったのだ。
 いまだにあの頃のことを思い出すと……といってもあまりに辛かったのでほとんどの記憶を意識的に消してしまっているのだけれど、暗い気持ちになる。本当に音楽だけが心のよりどころだったのだ。
 中島みゆき「親愛なる者へ」というとてつもなく重いアルバムを買って、弾けもしないフォークギターで弾き語りの真似ごとをしてみたりしたのもこの頃である。
 その後、合わないクラブを辞めて別のクラブに入部し、仲間たちにも恵まれてやっと明るい青春時代が到来するんだけれど、相変わらず成績はかなりヤバく(極端なのである。英語と国語と音楽は学年ベスト10以内、それ以外はワースト10以内というような)、その他の問題もあって、やはり音楽は手放せなかった。

 「そ×××事」「愛××つ」「ど××××も」「ほ××××いよ」「君××××けで」とかが流行っていた時代なんだけれど、かなりねじ曲がっていた私はこういうのにはまるで共感できなかった。
 いまだに「頑張れソング」的なものを、子供とかに聴かせる分にはいいけれど、自分の手元に置いとこうとは思わない。
 だから、たとえば東日本大震災の直後、「あなたが選ぶ今聴きたい、聴いてほしい元気が出る歌」みたいな番組がけっこうあったけれど、自分の中にそういった曲のストックが全然ないのに改めて気づいて愕然となったのだった。

 当時ずっと聴いてたたまのセカンドアルバム「ひるね」。馥郁とした名曲ぞろい。
 ひるね(紙ジャケット仕様) [BRIDGE-201] - たま
ひるね(紙ジャケット仕様) [BRIDGE-201] - たま