中山可穂「娘役」

 中山可穂さんの「男役」に次ぐ、宝塚シリーズ(?)第2弾は、タカラヅカの娘役と、彼女に純粋な愛をささげるヤクザの組長という、ありえないようであるかもしれないファンタジーである。 

 大鰐組組長・ムッシュこと大鰐健太郎を殺るべく、尾行を続けてきた他組の若衆・片桐蛍一。
 ある日、ムッシュが入っていった先、それはなんと宝塚大劇場……。
 大いに戸惑いながらも当日券をゲットし、背後からムッシュの首に手をかけたその瞬間、舞台上でラインダンスを踊っていた初舞台生・のび太こと野火ほたるが勢いよく飛ばしたハイヒールが片桐の目の前に飛んできたのだ。
 なぜか片桐はそのハイヒールを持ち帰り、夜の大阪の街をシューズリペアキットを探して奔走し、一晩かけて修理し、宝塚歌劇団雪組に送り返す。
 ほたるが飛ばしたハイヒールは、天からの啓示だったのか。片桐は組を移籍し、大鰐組預かりになる。ムッシュの話し相手となった片桐に、もう自分は長くないと悟っていたムッシュは、自分が知る限りの宝塚歌劇の知識を教えるのだった。

 チンピラ上がりから組内二番手、そして組長へと、組内でめきめき地位を上げる日々の中で、片桐はほたるに思いを寄せ続け、ほたる会に入り、花代をたっぷり弾み、しかしお茶会には決して顔を出さず、あくまでヤクザとしての分をわきまえてひそかにほたるを応援するのだった。 
一方のほたるは、子役専科と揶揄されるほど子役が続き、初めての新人公演ヒロインで主演の薔薇木涼とのデュエットダンスで尻もちをついてしまうという大失態を犯し、初めてのバウホールヒロインで練習しすぎて疲労骨折してしまうなど、苦難の娘役生活を送っていた。

 そんなある日、雪組行きつけの寿司店で、片桐とほたるは生涯にたった一度、言葉を交わすこととなる――。

 クールで熱い、クレバーにして大胆な片桐がとにかくかっこいい(その苦み走ったいい男ぶりから、雪組の組子たちからは「健さん」と呼ばれる)。現実にこんなヤクザさんいるんかしら、というくらい。 そんな片桐が、ほたるのこととなれば途端に純情になるのがまたかわいい。
 片桐が拾われる「大鰐組」の描写がまたヅカファンには受ける。なにしろ組長以下組員全員に愛称がつけられ(ちなみに片桐は「ギリ」)、若頭は「二番手」と呼ばれ、組のモットーは「品格・行儀・謙虚」(これ、実在したタカラヅカの大御所・春日野八千代御大が、タカラジェンヌの心得として口を酸っぱくして言っていた言葉)。 組長がヅカファンだからってこんなに徹底するとは、と、笑いながらも、こんな組があったらいいなあとも思う。
 一方で、チャンスを次々にふいにしながらも別格娘役として活躍していたほたるが、なんと研10(入団10年目という意味です)でまさかのトップ就任(これは娘役としてはかなり遅い部類)! 片桐にとってはずっと願い続けていたこと、だったのだが……。
 
 ハードボイルドで哀しい、清く正しく美しくはかない10年愛の物語を、ぜひ読んでみて下さい📖


娘役
KADOKAWA/角川書店
2016-04-27
中山 可穂

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