サニーデイ・サービス「青春狂走曲」

 この本の存在すら、申し訳ないことに全然知らなかった。それくらい、音楽から、サニーデイ・サービスから離れた日常を送っていたことになる。
 そう、あの知らせを目にするまでは。

 アーティスト本というものは数多く存在するけれども、ここまでほとんどインタビューのみで構成された本もそうそうないかもしれない。
 サニーデイ・サービスをずっと追い続けてきた北沢夏音氏による、デビューから2000年の解散、2008年の再結成、そして2016年の丸山晴茂氏の離脱までのインタビュー集である。

 サニーデイのファン以外の人にもぜひ読んでもらいたいのには理由がある。
 これは単なるバンドの栄光と崩壊、再起を記したインタビュー集ではない。
 才気に満ち溢れた人間と、彼についていくので精いっぱいだった仲間たちとの、苦しいほどの差異、そこからくる亀裂、再生を通して、「組織のあり方」「リーダーのあり方」「構成員としての在り方」までをも考えさせられる一冊なのである。
 途方もない才能と実力、商才にまで恵まれた一人のロックミュージシャン。キラリと光る才能のかけらはあるのに努力でその才能を伸ばすことができず、メンタルも弱い一人のメンバー。その間に挟まれて調整を担うような形になる、才能面でも人間的にもごく普通のメンバー。
 危うすぎるバランスは、才能に恵まれたリーダーが苛立ちを他のメンバーにぶつける形で壊れ始め、一人は酒に走る。そしてついにリーダー自らが「俺、辞めるわ」と唐突に宣言。バンドは崩壊する。
 才能と実力(努力する才能もあるのだろう)が溢れるばかりのリーダーはソロミュージシャンになり、新しい仲間と堅実にミュージシャンとしての地位を維持していく。一方他のメンバーは、空白の時間を飲み倒す者あり、他のバンドのマネージャーとして腕を振るう者もあり。別々の道を歩いていた3人が、まさかの再結成。
 大人になった3人は今度こそ青い情熱ばかりではなく適切な距離を保ちながらバンドを続けていく、はずだった。

 サニーデイのもう一人のメンバーと言ってもいいほどの存在だったディレクターの渡邊氏も登場する。 ほとんど実の兄のような愛情を曽我部氏に注ぐも、他のメンバーに対してははっきり言って冷淡と言ってもいい。 「あじさい」のレコーディングのエピソードなどはちょっと本当にひどいと思う(あの名曲がそんな感じで録られてたのか……)。 
 「とにかく僕は曽我部が大好きだった。それだけでこの仕事は成立していると本気で思ってた」と、他の雑誌で語っているのを読んだことがあるが、いやいや、ディレクターとリーダーとの蜜月だけじゃバンドは成立しないっしょ、と突っ込みたくなった。 やはりそんな感じだったのか。 他のメンバーはどんな気持ちで曽我部氏と渡邊氏を見ていたのだろう……。

 そんな彼らをほとんど実の兄というか伯父さんのような深い愛情で見守り、インタビューを続けてきた北沢氏。 (笑)は一切なく(もちろん実際は笑いもあったのだろうが)、きりりとした秋風のような清涼な文章でサニーデイを紡いでいく。 フリッパーズ・ギター、小沢健二、ムーンライダーズ、はっぴぃえんどなどの名前をちりばめながらも、他の何とも違う唯一無二のバンド・サニーデイの姿を浮き上がらせていく。 行間から「雨の土曜日」「花咲くころ」「スロウライダー」「セツナ」などの名曲の数々が聞こえてくるようだ。 苦しくなるくらい。

 本書が出版された翌年、丸山氏は短い生涯を終えた。テクニック先行とは言い難い独特のドラムと、細面のはにかんだ可愛らしい笑顔の記憶をファンの心に残して。 

 丸山氏が長引く体調不良で離脱した2016年のインタビューで、田中貴氏と曽我部恵一氏が彼のドラムについて語っている。
 「やっぱり晴茂くんは、曲の空気を読み取るのがうまいんですよ。「この曲で一発金物を“チン”と入れてくれる?」と言っても、他のドラマーだと全然違う“チン”がきたりすることもあるけど、晴茂くんは一言でタイミングも音色もバッチリなやつを入れてくる。晴茂くんはそういう雰囲気をつかむのが絶妙なんです。その人の生き様が音に出ているんだなと、思いますね」
 「晴茂くんのドラムって本当に奇跡だから、これは替えが利かないな、という感じ。この人の代わりってないんだなと思いました」

 私の手元にある本書の裏表紙には、なぜか鉛筆でさっと付いたような汚れが付いている。
 でもそんなことは気にしない。消しゴムで消せばいいだけだ(消してないけど)。
 この大切な本を、同じように大切に出版社の人か書店の人がその手で扱っているうちに付いてしまったのだ。
 そんな人の手のぬくもりが、サニーデイ・サービスのこのインタビュー集にはふさわしいように思っている。

青春狂走曲
青春狂走曲

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0