「朽ちていった命―被曝治療83日間の記録」

 こういう重い内容の本を読むことが普段ほとんどないのだけれど、ひょんなきっかけから読むことになり、以来ずっと頭から離れないのである。
 
 1999年9月30日、茨城県東海村の核燃料加工施設・JCOで起きた臨界事故についてのドキュメンタリーである。
 2名の作業員のうち、20svの放射線を浴びた大内さんは83日目に、6~10svの放射線を浴びた篠原さんは211日目に、多臓器不全で亡くなることになる。
 本書では主に大内さんに焦点を当て、ご本人、ご家族、医療チームの生きるための必死の闘いを追っている。
 
 sv(シーベルト)という単位を、東日本大震災以来私たちはよく耳にしているけれども、致死量は8svとされている中、20svの被曝をした大内さんは、当初から回復は絶望視されていたという。
 それでも東大病院に転院してきた時点では、話もでき、右手が腫れているだけで、「もしかしたら退院できるのでは…」という期待をしていた看護師もいたようだ。
 しかし大内さんの身体は、被曝したその瞬間に、染色体が破壊されていた。
 染色体の破壊は、この先新しい細胞が生成されないことを意味する。
 体の内側からじわじわと破壊されていく様子、それを必死で食い止めようとする医療チーム。

 「回復の見込みがない患者に、これ以上ケアを施すことに意味はあるのか?」
 「本当は患者さん本人も辛いのではないだろうか?」
 そう自問しながらも、最後の最後まで希望を捨てない家族のことを思い、一日でも長く生きられるよう、さまざまな医療器具を用い、日本では許可されていない薬まで用い、医療チームは処置をし続けた。
 亡くなった大内さんの身体は、唯一心臓だけがきれいなままだったという。
 「生きたい」という意思の表れだったのか。

 本書に対しての感想としては適切でないかもしれないが、生きるのがつらくなった人、生きる意味を見失った人に、本書をすすめたいと思う。
 致死率100%とされる中で、それでも生きたいと闘った人がいる。 最後まであきらめなかった家族がいる。 わずかな良い変化(皮膚の状態が少し良くなったなど)を支えに、丁寧に慎重に、ケアをし続けた主治医や看護師たちがいる。
 「命の重さ」を信じられなくなった人に、ぜひ読んでほしいと思う。
 
 もちろん、今のこの時期だからこそ、そして被爆国であり地震国であり原発を多く持つ日本に住んでいる私たちだからこそ、放射能というのがどういうものなのか、大量に被曝するとどうなるのか、知っておく必要があるという意味においても、本書を読む価値はあると思う。
 「少量なら害はない」「正しく怖がろう」など、マスコミではいろんな言葉が飛び交っている。 この事故のように、一度に致死量の倍もの被曝をしてしまう例はもちろん稀だとは思う。 しかし、やはり知っておく必要はある。 知った上で、ではこの先原子力とどう向き合っていくのか、考えることが必要なのではないか。

 なお、本書はNHKで放送された内容を書籍化したものなので、放送自体はyoutubeにアップされているものを閲覧することが可能です。 理解を深めたい方はご覧になってはいかがでしょうか。