映画「ノルウェイの森」見てきました!(ネタばれ注意)

村上春樹「ノルウェイの森」」について
 4年前に小説の「ノルウェイの森」について書いた自分のブログにトラックバックします。もし小説をまだお読みでなく、これから映画を見るにあたってあらすじを知っておきたいという方はそっちの記事もお読みいただけると幸いです。

 ★★★以下ネタばれ要注意!★★★
 全体の感想は「ラブストーリーにしようと意識するあまり、原作の重要なポイントを削りすぎていて、深みを欠いてしまったな」というもの。

 もっとも残念なのは、療養所でのヒロイン・直子のルームメイトであるレイコさんという中年女性が、原作では3度の精神病院入院の経験から主人公・ワタナベや直子に重みのあるアドバイスをする(それは我々読者にとっても生きる上での指針になるような言葉たちだ)という重要なキャラクターなのに、まったくと言っていいほどそういう要素がカットされ、ただの直子の付添人のようになってしまっていたこと。
 直子やレイコさんの精神病を掘り下げると、ラブストーリーの純度が下がって、別の映画になってしまうという懸念があったのかもしれないが、それにしてもひとことでいいから「レイコさんらしさ」を示す台詞がほしかった。
 演じる霧島れいかさんという女優さんは、ギターで「ノルウェイの森」を弾き語るシーンがあるのだが、歌もうまいし声も良いし英語の発音も良いし、びっくりした。

 次に残念だったこと。
 もう一人のヒロイン・小林緑が「私これまでの人生で十分に傷ついてきたし、もうこれ以上傷つきたくないの。幸せになりたいのよ」と言うのだが、映画では緑の苦労の多い半生についてほとんど語られてないので(両親を失ったことは示されるが)なんだかこの台詞が唐突に思えたのだ。
 両親を病気で失ったのは確かに気の毒だけれど、美人で明るくて友人もいて恋人もいて、楽しそうな描写しかないので、「どこでどう傷ついたっていうの?こんな20歳の娘が?」と思ってしまうのだ。
 ワタナベを愛し始めたのに、ワタナベは別の女の子(直子だ)のことしか見ていない、という苛立ちも、映画ではほとんど感じられず、気まぐれに機嫌を損ねたり怒ったりする女の子、という風にしか見えなかった。
 演じた水原希子ちゃんは映画初出演とは思えないくらい自然で良かったと思う。

 直子役の菊地凛子についてはあちこちでいろいろ書かれているのでくどくどとは書かないが、やはり年齢的にも資質的にも無理があったかも…と思わざるを得ない。
 演技力で力技で直子に持って行ったという感があるが、こと直子に関してはそんなんじゃなくていいから、演技は少々下手でもいいから、もぎたての青い果実が病んでいく……というイメージを体現できる人に演じてほしかったな。
 ただ、高原で長台詞を一気にしゃべりつつ、最後は慟哭するというシーンは、見ごたえがあった。

 演技だけでいうと、演技賞はハツミさん役の初音映莉子さんにあげたい。
 永沢さん(玉山鉄二)に対する積もりに積もった不満が静かに爆発していくさまを細かく細かく表現していて、息を呑んだ。
 
 糸井重里(大学教授役)も、高橋幸宏(療養所の門番役)も、台詞はひとことしかなく、細野晴臣(レコード店店主役)にいたっては台詞無し!
 これだけのリアルワタナベ世代の大物をそろえておきながら、こんな使い方も贅沢だなと思った。
 ワタナベがレコード店でバイト中に手を切ってしまい、細野さんが大慌てで止血しに来るシーン、なんであれだけスローモーションだったんだろう? その意味のなさも笑えた。

 最初にも書いたが、「ラブ注入」ならぬ「ラブ抽出」な映画化なので、ラブシーンが多すぎて、それも原作にはないような描写もあり、げんなりしないでもない。
 私の中では直子はあくまでキズキという自殺した恋人のことしか見ていなくて、ワタナベのことは直子なりに大切に思ってはいるけれども恋愛感情はまったくない、と解釈していたので、映画では直子から迫るようなシーンもあって「それはちゃうやろ!」と叫びたくなった。

 あと、キズキの自殺するシーンをあんなに事細かに描写するくらいなら、直子の自殺をもっと描けよ、とも。
 雪山に2本の足。ナレーション「直子が死んだ」。
 これはないでしょ。
 原作ではレイコさんがワタナベのアパートを訪れた時に、どういう流れで直子の死体が発見されるに至ったか、説明してくれるんだけれど、映画ではもちろんそれもないもんだから、あまりにも唐突だし、自殺するに至った直子の悲痛な心理描写もほとんどなくて、「なんなのこの人、結局?」感が否めないのだ。

 というわけで結論から言うと、映画を見る前でも見てからでもいいので、とにかく原作は読んでほしい。
 原作を読まずに映画だけ見て「なんだノルウェイの森って、そんなに騒がれるほど名作でもないじゃん」などとゆめゆめ早合点するなかれ。
 原作には、映画に描かれなかった大切なエッセンスがぎっしり詰まっている。 あなたにとっての「人生の一冊」になるかもしれない。 ぜひぜひ原作を読むことをおすすめする。 




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