盲腸入院日記①

 6月10日(日)、昼寝から覚めた直後、おなかが痛くなったのがそもそもの始まりだった。
 胃がぎゅ~っとしめつけられるような痛み。
 こういう痛みは以前にも経験があって、そのときも半日もすれば自然と治ってしまっていたので「今回もそれかな」という感じでわりと気楽に、夕食も食べてお風呂にも入った。痛かったけど。
 ところがである。
 23時ごろから痛みがひどくなり、というより無性にトイレに行きたくなり、はじめは「下」だけだったのが「上」も苦しくなり始め4回も吐き、夫の「救急車呼ぼうか?」との言葉にうなずいたのだった。
 駆けつけた救急車に夫とともに乗り込み、夫が作ってくれた吐き袋の中にまたしても吐き(もうほとんど吐くべきものは胃の中になかった。ただ胃が痙攣するばかり)、市民病院に入った。
 すぐ寝かされ、点滴を打たれ、レントゲンやCT検査のため妊娠していないかを確認するべく尿をとるように言われる。しかしもう私の中には水分は一滴も残っていない。「おしっこ出ないんです…」というと、超音波でぐりぐりおなかや下腹部を押さえられる。胃が痛いのにそれははっきり言って拷問である。 結局超音波でも妊娠は確認できず、「このまま痛い痛いってゴロゴロしてても前に進まないから、がんばっておしっこ出しましょう!」と男らしい看護師さんに励まされ、点滴が効いたのもあってやっと尿が出る。
 結局妊娠はしていなかった。
 ここから車椅子に乗せられ、レントゲン、CTと、痛い腹をこらえながらあちこち検査に回される。「さっきの痛みを10としたら今の痛みは?」「8…」などと看護師さんと会話をしつつ、検査が終わってベッドに寝かされる。痛い。苦しい。痛み止めの注射でも薬でもいいから、どうして今の痛みをとりあえず取り去ってくれないのか? 検査なんかその後でもええやん、と苦しみながら寝ている。そばで夫が心配そうに見てくれている。なんとなく緊張というか、精神的に不安定になっていて、ぶるぶるふるえが止まらない。
 ほどなくして、「盲腸の疑いがあるので外科の先生に」ということになり、外科の先生を紹介される。現れたN先生を見て「この人が先生?」と私も夫も思ってしまうほど、外科医というより白ウサギという感じの、若くてかわいらしい女性の先生であった。
 ともあれ、車椅子で3階の病棟に運ばれる。とりあえず入院だという。
 入院なんて始めてである。
 もう深夜2時か3時になっているだろう。夫は疲れて私のかたわらで眠り始める。当たり前だ。本当に心配をかけてしまった。私はといえば痛くて痛くてとても眠れる状態ではない。見回りの看護師さんに「痛いです」と言うと、痛み止めの座薬を入れてくれる。座薬! 座薬なんて大の苦手なんだけれど、このときの私はもう「痛みさえ治まれば何をしてくれてもいい。もうどうにでもして」状態だったので、我慢して受ける。うむむむっ、痛い。でもやはり座薬のおかげで痛みが引いてきて、ほんの少しだけ眠る。

 翌日11日(月)。夫が私の職場に電話してくれ、自身も仕事を休んでくれる。入院にあたって必要なタオルや着替えなども何度も家と病院を往復して持ってきてくれる。家が比較的近くてよかった。そして、改めて夫の優しさに感謝した。
 でも痛い。2度目の座薬。
 N先生がやってきて「CT検査の結果、虫垂のあたりに石のようなものがあり、急性虫垂炎の疑いがある。薬で『散らす』こともできるけれど、再発の可能性がある。どうしても切りたくないというのであれば散らすことも選択肢の中にある。どうしますか?」というようなことを言う。「手術すればもう一生、こういう胃の痛みからは解放されるんですか?」と2回くらい聞いた。とにかくこんな痛みはたくさんだ。この痛みから逃れることができるのであればもう何でもいい。一生苦しまずにすむのであれば切ってもいい。というわけで案外すんなり「手術の方向でお願いします」と答えを出す。
 さあ、ここからは話が早い。何しろ手術すると決まれば早くした方がいいわけで、準備が大忙しで始まる。手術は全身麻酔ではなく下半身だけを麻痺させることになり、しばらく寝たきりで動けなくなるので「エコノミークラス症候群」になってしまうのを予防するため、一足3千円もする特殊な靴下を買わされ、そのものすごくきつい靴下をはかされた上に妙な機械を両足につけられる。30秒に一度くらいの割合で、その機械が私の足首を締め上げて緩めるのである。さらにへそゴマを掃除してもらう、下腹部をきれいにしてもらう、極めつけは尿の管を入れられる! これが一番痛かった。おなかそのものの痛みより、術後の傷の痛みより、この痛みがひょっとすると一番つらかったかも。というわけで個人的には手術そのものよりこの「準備」の方がいやだった。手術はもう一度してもいいけど(もちろんしなければそれに越したことないけど)準備はもう二度といやかもしれない。
 さあ、いよいよ手術だ。ベッドごと運ばれる。ドラマなんかで見るそのままの状況に自分が置かれていることに恐怖を感じる。なんでこんなことになっちゃったんだろう。おとといまでは本当にごく普通の生活をしてたのに。動くと尿の管が微妙に痛い。手術室に運ばれると、緑色のベルトコンベアー(?)のようなもので別のベッドに寝かされる。背中に麻酔の注射。「こんなものかな」という感じでものすごく痛いというわけではない。程なくして下半身の感覚がなくなってくる。「ここ痛い?」「え、どこですか?」という感じ。手術スタート。
 下半身だけの麻酔だが、それでも息が若干苦しくなる。緊張と興奮からまた震えが止まらなくなる。「寒いか?」と麻酔医の先生に聞かれる。自分で必死に深呼吸を続ける。「順調にいってますよ」「今から縫いますからね」「もうすぐですよ」と看護師さんが教えてくれる。右腕に点滴、左腕に血圧計、胸に心電図、広げて固定された両腕が痛くて痛くて、ほんの少しだけだけどくるくると必死で動かし続ける。一分に一回くらいの割合で血圧が測られる。「またか。もうこらえて」という感じ。手術は年配の男性の医師と、N先生と思われる女性の医師の二人で行われているようだ。「はい、終わりました」との声を聞いたのは1時間くらいたってからだった。ほっ。
 病室に戻ると、母も来てくれていた。夫と母が心配そうに見守っている。私はといえば手術が終わった安堵感と、二人に対する感謝の気持ちで、安らいだ心境になっていた。両腕がむちゃくちゃだるいのと、尿の管が気持ち悪いのとを除けば。
 ありがとう。ごめんね。びっくりしたでしょ?
 夫はひとまず帰り、母は遅くまでついていてくれた。私はとろとろと眠りについた。

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