村上春樹「1973年のピンボール」

あらすじ(結末あり注意!)
 ★1973年。僕は24歳になっている。大学卒業後、大学の友人と事務員の女の子と3人で小さな翻訳事務所を設立し、忙しいながらも充実した日々をすごしている。プライベートではどこからか転がり込んできた双子の女の子と暮らしている。名も名乗らない上にそっくりな二人が着ている数字のついたトレーナーを頼りに、とりあえず「208」「209」と呼ぶことにする。
 一方、鼠はいまだ兵庫県に住んでいる。大学を辞め、職にも就かず、父親が「苦労をさせるために」与えた豪華なマンションの一室で鼠は何もせず、時折訪れる感情の波にじっと耐えて過ごしている。
 ある時鼠は新聞で見つけた中古のタイプライターを買い、売り主である年上の女性と恋仲になる。設計事務所に勤める彼女と週末に会うようになった鼠だが、それも鼠の心の渇きを癒すには至らなかった。
 東京の僕は、かつて「ジェイズ・バー」で鼠とともに夢中でプレイしたピンボール台「スペース・シップ」が自分を呼び続けているのを感じる。東京中のゲームセンターやバーを探すが、日本に4台しか輸入されていないその台はほとんどが行方不明か廃棄処分になっていた。やがて大学でスペイン語を教える「ピンボール・マニア」の男性と知り合い、彼の案内でとあるピンボール・コレクターが所有する建物を訪れる。そこはもともと養鶏場で、中に入ると実に78台のピンボールが僕を待っていた。その中に捜し求めていたピンボール台を見つける僕だが、自分のベストスコアを汚したくないという思いから、プレイはせずにその場を去る。
 11月。双子の女の子は僕の元を去っていく。
 今が故郷を去ってどこか別の場所で新しい生活を始める時だと考えた鼠は、ジェイズ・バーのマスターであるジェイに「街を出ることにするよ」と言い残し、恋人には何も告げずに故郷をあとにする。★

 私は「羊」シリーズの中ではこの作品が比較的好きである。
 1973年9月から11月にかけての、今ほどやかましくはなかっただろう街の空気、秋の澄んだ空気を感じることができる。
 11月という月が個人的に一番好きだから余計にこの作品が好きなのかもしれない。
 11月のほかほかと暖かい陽だまりのような「僕」のささやかながら穏やかな生活とは反対に、「鼠」の毎日は11月の木枯らしのごとくぴりぴりとして冷ややかである。それがほかでもない「鼠」自身の弱さから来るものであることが余計に切ない。
 小さいけれど自分らしい仕事を見つけて、自分だけの小さいけれど確かな世界を築き上げつつある「僕」と、何かをやってやろうと思いながら、そしてそれ相応の能力もありながら、それを具体化する術がないばかりに結局何もできずに、自分の弱さの中に沈みこんでいく「鼠」の違いはどんどん大きくなっていき、「羊をめぐる冒険」の悲劇へとつながっていく。
1973年のピンボール

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