村上春樹「風の歌を聴け」

 あらすじ(結末が書かれていますので未読の方はご注意ください)
 ★1970年8月。東京の大学に通う21歳の「僕」は、夏休みに兵庫県芦屋市(推定)の実家に帰省している。隣の神戸にある「ジェイズ・バー」に夜な夜な出かけ、ひとつ年上の友人である「鼠」とビールを飲みつつ、物憂い夏をすごしている。鼠は地元の大学に通う金持ちの息子だが、世の中の金持ちの連中を激しく憎み、自分自身が金持ちであることからも逃げ出したいと思っている。
 ある日僕は、ジェイズ・バーで酔いつぶれた女の子を家まで送り、そのまま泊まってしまう。朝目覚めた女の子は僕が自分に乱暴したと誤解し、「あなたって最低よ」となじる。のちに僕と彼女とは彼女が働くレコード店で再会するが、彼女の態度は変わらない。
 そんなある日、僕は彼女から「謝りたい」と連絡を受け、ジェイズ・バーで待ち合わせる。だんだん打ち解けていく二人。
 翌日僕は彼女の家でシチューをご馳走になる。彼女は「しばらく旅行に行く」というが、どこに行くかは言わない。
 鼠は大学を辞め、付き合っている女の子のことも途中で投げ出してしまう。そんな鼠に僕は「並外れた強さを持った人間なんていないんだ。みんな同じなんだ。それに早く気付いた人間が少しでも強くなるように努力すべきなんだ。強い人間なんてどこにもいやしない。強いふりのできる人間がいるだけだ」と語る。鼠は「本気でそう思っている」という僕に「嘘だと言ってくれないか?」と懇願する。
 彼女が戻ってくる。旅行に行くと言ったのは嘘で、彼女は中絶手術を受けていたのだった。相手の名前も顔も覚えていないと彼女は言う。
 それきり彼女と出会うこともなく、僕は高速バスに乗って東京へ戻っていく。★

 村上春樹のデビュー作にはこれといったストーリーの起伏もなく、登場人物も数名、淡々と物語が進んで淡々と終わる。
 それでもこの小説が現在に至るまで読者を獲得し続けているのは、その独特の空気感かも知れない。
 まわりのものすべてをどこか醒めた目で突き放して見ているような主人公「僕」のありようが、何かに熱くなりたくて熱くなりきれない人々の心を捉えたのかもしれない。
 あらゆる物事との間にしかるべき距離をとり、ささやかな幸せをつむごうとする「僕」と、何かを成し遂げたいと思いながらも自分の無力感に負けていく「鼠」の物語は「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」「ダンス・ダンス・ダンス」まで続く。
風の歌を聴け

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