村上春樹「雨天炎天」

 四駆でタフにハードに道なき道を行く!みたいな旅行記って、とかく汗くさくて男くさくて、はっきり言って私の好むところではないわけだけれど、そこはやはり春樹氏。
 本書はギリシャとトルコの辺境旅行記なんだけど、どことなくとぼけた雰囲気の文章は健在で、男性数人での旅行にもかかわらず、汗くさい感じはほとんどない。
 おそらく、その土地で出会った人、およびその土地で食べたものについての記述が多いからだろう。

 ギリシャの島ではギリシャ正教の修道院めぐり。なかなかそういう旅行を思いつく人もいないんじゃないか。僧侶か野猿かわからないくらい汚いなりをしたお坊さんから「今度来るときはギリシャ正教に改宗しておいでなさい」とまじめに説教されたりもする。あまりありがたみがないような気がする。すごくおいしいウゾー(ギリシャの酒)やコーヒーやルクミ(ギリシャの京菓子のようなものだろう。ゼリー状の甘いお菓子)や野菜をたっぷり食べさせてくれる修道院もあれば、カビの生えたパンを水道水に浸したやつに、どくどく酢を注ぎ込んだ冷たい豆のスープというとんでもない代物を施してくれる修道院もある。まあその道中がかなり気の毒なんだけれどおかしくて、さくさく読み進めてしまった。

 21日間かけて四駆でトルコを一周する旅。美しい黒海沿いの街もあれば、荒くれた物騒な街もある。どこにも言えることは、チャイを飲ませるカフェ(チャイハネというそうだ)があちこちにあって、しかもチャイがむちゃくちゃ安いということ(一杯10円がおおよその相場)。いいなあ。スターバックスもそれくらい安くなってくれたら毎日のように通うのになあと、心底うらやましくなる。

 ギリシャの人々もトルコの人々も、基本的にものすごく素朴で優しい(もちろん泥棒関係の人々は除いて)。トルコの国境を守る兵士たちとチャイを飲みながら談笑したり、兵士の一人に空手の型をつけてあげたりする場面はほほえましい。この旅行が行われたのは20年くらい前なのだけれど、今でももしかしたら基本的な人々の心は変わっていないかもしれない。日本人の心はこの20年でずいぶん余裕を失ってささくれ立ってしまった気がするけど……。
雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行

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