東京旅日記④ぼくらが旅に出る理由

 ①で、「夫が当日になっていろいろ行きたがったのには理由があるのだ」と書いた。
 実は、夫が今の今まで東京に足を踏み入れなかったのには理由があった。
 東京に対して、わけもなく嫌悪感、強い苦手意識を持っていたのだという。
 「東京の人間はみんなすかしている」「自分のような田舎ものが東京に行ったら笑いものにされる」「どこもかしこもごみごみしていて歩きづらい」という強い思い込み、偏見から、今まで避けてきたのだという。
 ま、関西人にはありがちな偏見かもしれないけれど、そんなものに凝り固まって、東京に行かぬまま一生を終えるのはもったいないんじゃないかという思いから、なんとか夫を説得して、東京に連れ出したというわけなのだ。
 結果は、これまで書いてきたとおり、上々。予想以上に東京を好きになってくれた。

 夫が東京を気に入ったポイントはいくつかある。
*当たり前かもしれないが、交通機関が発達しているため、一度にいろいろな所に行ける。
 私も今回旅行を計画してみて、地下鉄だけでこんなにスムーズにいろんな街に行けるなんてと、改めてうれしくなってしまった。歩こうと思えば歩ける距離にいくつもの街があるし。しかも意外なことに、電車代が安い! 「え、160円!?」なんてびっくりすることがしばしばあった。これだったら大阪市営地下鉄の方がずっと高いで。梅田~心斎橋間が3駅しかないのに230円もするもん。
*人が多いのに、ごちゃごちゃした感じがあまりなく、スムーズに歩ける。
 夫に言わせると、人にぶつかられたことがほとんどなかったという。私も、ぶつかりそうになった人に逆に道を譲ってもらう場面が結構あったなという感じがする。大阪ミナミなんて歩いてたら、人にぶつかられっぱなしやもん。
 それに、なんだかみんな静かに歩いたりご飯食べたりしてるなという印象もあった。明治大学の前も通ったけれど、道行く学生さんたちは楽しそうなんだけれどどこかクールで静か。青山通りのカレー屋さんにどやどやと入ってきてがつがつとカレーを食べ始めた高校生たちもなぜか静か。わいわいぎゃーぎゃーと、周囲の迷惑もかえりみず広がってだべりながら歩く人があまりいない。
*どこから来たどんな人でも、さりげなく受け入れてくれそうな雰囲気がある
 夫なんて、「道行く人に笑われてムカついて喧嘩でも吹っかけてしまいそうな」不安を抱いていたと言っていた。それくらい東京に対して気後れしていたらしいのだが、実際東京を歩いてみると、どんな田舎者であろうと、どんな格好をしていようと、笑ったり馬鹿にしたりする人なんていないのだ。みんな他人に「良い意味で」関心がないのだ。ヲタクにはヲタクのための場所が、おばあちゃんにはおばあちゃんの、田舎者には田舎者の、洒落者には洒落者のための場所が用意されているのが東京。ひそひそ噂したりくすくす笑ったりするのは田舎だけの話。東京ではある程度自由にふるまうことができるのだ。
 てなわけで、あんなに嫌っていた東京に「毎年でも来たい!」とまで言うようになった夫である。下手にあちこちの観光地に行くよりも毎年東京に来た方が、費用対効果の観点からも良いのではないかと。次は月島でもんじゃ、早稲田大学や下北沢、そして夫が今回最も気に入った浅草をもっとじっくりと……と、夢をふくらませている。
 先入観、偏見、苦手意識を持つのはある程度仕方のないことだ。でも、飛び込んでみもしないで、ただ勝手なイメージだけで自分の世界を狭めてしまうのは、あまり楽しい生き方とはいえない。限られた人生の時間の中に、ひとつでも多くキラキラとした思い出をつめこむこと。私たちが旅に出たり、新しい体験をしたりする理由は、少しでも自分の世界を広げ、輝かせることなのではないか。